大深度地下使用認可申請に関する公聴会2014/02/23・24

公述人 長谷川 茂雄(都市計画道路連絡会世話人)

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20130223 道路住民運動全国連絡会議 幹事
都市計画道路連絡会 世話人   長谷川茂雄

国土交通省のHPによれば、「大深度地下使用法の認可の要件」として7項目全てに該当することが必要とされています。
7項目とは、
[1] 事業が大深度地下使用法第4条各号に掲げるものであること
[2] 事業が対象地域における大深度地下で施行されるものであること
[3] 事業の円滑な遂行のため大深度地下を使用する公益上の必要があるものであること
[4] 事業者が当該事業を遂行する十分な意志と能力を有する者であること
[5] 事業計画が基本方針に適合するものであること
[6] 事業により設置する施設又は工作物が、事業区域に係る土地に通常の建築物が建築されてもその構造に支障がないものとして政令で定める耐力以上の耐力を有するものであること
[7] 事業の施行に伴い、事業区域にある井戸その他の物件の移転又は除却が必要となるときには、その移転又は除却が困難又は不適当でないと認められること
ですが、このうち、
[3]事業の円滑な遂行のため大深度地下を使用する公益上の必要があるものであること
[4]事業者が当該事業を遂行する十分な意志と能力を有する者であること
の2項目については、今回の申請内容や事業の公益性に疑念がある為、大深度法の認可に適合しないと考えます。

これからそのように判断する幾つかの理由を述べます。

その1、2013年7月に行われた東京外環道の事業再評価委員会における再評価には根拠データが示されていないなどの試算上の瑕疵があります。

再評価が行われた際に配布された「資料2−5−?」に記載されている東京外環道の
目的は
「?首都圏の慢性的な渋滞の緩和、?沿道環境の改善、?周辺の生活道路の安全性の向上」とされています。
計画交通量は、
大泉〜青梅街道JCが95600台、青梅街道〜中央JCが83800台、中央JC〜東名JCが75900台。
周辺の状況は、
・外環(関越〜東名)は、ほぼ全域に市街地が形成されており、駅周辺に中高層高密度市街地が形成され、その周囲に低層高密度市街地が多く分布している。
・関越自動車道と接続し、基本的に地下構造により市街地を通過し、東名高速道路へ接続している。

としていますが、
再評価での費用対効果(B/Cは実態を反映しておらず、且つその根拠データが開示されていない為に検証できないものです。

再評価での費用対効果(B/C)の試算では(資料2−5−?)
「費用便益比(事業全体)で2.3」としています。
交通状況の変化(推計時点 H42年) 及び便益として
事業名:東京外かく環状道路(関越〜東名)(事業全体・残事業)
                       [距離](比率)              [億円/年](比率)
(1)新設・改築道路   16.2km( 0.08%)     188.60( 0.12%)
(2)主な周辺道路  計412.6km( 2.26%)    7,166.46( 4.57%)
(3)その他道路  計17,770km(97.64%)  149,210.47(95.30%)
       合計18,199km(100%)   156,565.53(100%)
参考/隣接南北道路時間短縮試算
(環状7号線)20.8km  整備なし66分 整備あり64分
(環状8号線)24.4km 整備なし72分 整備あり68分
(吉祥寺通り) 9.7km 整備なし36分 整備あり32分
(武蔵境通り) 9.0km 整備なし36分 整備あり31分

又、当初評価及び再評価では、算入すべき便益が除かれており、便益に試算の正当性がありません。
事業再評価では「走行時間短縮・走行経費減少・交通事故減少以外の便益は考慮しない」とされており、事業により発生するその他のマイナスを含む便益は除外されています。
沿道や地域社会に関するものとして、
・発生する大気汚染&騒音などとその対策費、
・景観に関する影響、
・生態系に対する影響、
・地球温暖化など、エネルギーに関する影響
・地域コミニュティへの影響
などが想定されます。

これらには、費用換算が難しいものもありますが、「発生する大気汚染&騒音などとその対策費」や「地球温暖化など、エネルギーに関する影響」については費用を計算できるにも関わらず、これらを除いているのでは正確な費用対効果とはいえないのではないでしょうか?

その2、東京外環道が果たす役割は「?首都圏の慢性的な渋滞の緩和」とされていますが、外環道事業は実際にはその目的に役立たないと考えます。

外環道は圏央道・中央環状線と共に3環状として
「首都圏3環状道路は都心部の慢性的な交通渋滞の緩和及び、環境改善への寄与等を図り、さらに、我が国の経済活動の中枢にあたる首都圏の経済活動とくらしを支える社会資本として、重要な役割を果たす道路」
とされていますが、2007年12月には中央環状新宿線の5号池袋線〜4号新宿線間、2010年3月には同4号新宿線〜3号渋谷線間が供用されました。更に圏央道については高尾山に掘られたトンネルを含む高尾山〜八王子区間が2012年に供用されたのに続き2013年には茅ヶ崎〜寒川北間と海老名〜から相模原愛川区間が供用されました。
このように相次いで環状線高速道路が供用されているのにも関わらず、首都高速道路の交通起終点調査などからは一向に都心の通過交通量が減っていないことが示されています。
この起終点調査からみると、都心環状線とその通過交通と中央環状線の交通量の推移は、都心環状線の利用交通量が2001年度と2008年度の間で急減し、さらに2011年度に減少していますが、
通過交通の減少幅は小さく割合は
59.4% → 61.1% → 62.4% →63.4% → 64.5%と増加しています。
外環東京区間(関越〜東名)が整備されたとしても、
●3号渋谷線・東名高速や4号新宿線・中央道から7号小松川線・京葉道や11号台場線・湾岸線へ抜ける車は都心環状線を利用するであろうということ
●3号渋谷線・東名高速から6号向島線・三郷線・常磐道へ抜ける車の5〜6割は都心環状線を利用するであろうということ
が推測され、都心環状線のこれ以上の通過交通排除は難しいのではないでしょう?

また外環道の整備効果でいわれている
「首都高都心環状線を利用する交通の約6割が沿道に用のない通過交通」
についても、同様にその根拠があいまいで不確実です。

首都高速道路株式会社が発表している文書によると、
「弊社が2002年に行った『第25回首都高速道路起終点調査』によりますと都心環状線の利用交通のうち約6割は、都心環状線を通過する交通となっています。残りの4割は、霞ヶ関や銀座といった都心環状線の出入口を利用する交通です。また、上記起終点調査によると東京外環自動車道が接続する都市間高速道路(東名高速や中央高速など)から他の都市間高速道路に行く、すなわち首都高速を通過する交通は全体の5%程度で、残りの約95%は都内に起終点の両方または片方を持つ交通です。」
とされています。
国土交通省の資料に掲載された図は、同じ「第25回首都高速道路交通起終点調査」をもとに作成されています。
この報告書によれば、首都高を利用する車は
1日1,062,585台、
そのうち都心環状線の利用は    461,419台で
その通過交通は          288,096台(都心環状線利用の62.4%)
です。
東名高速や中央道のような道路を都市間高速道路といい、相互に行き来する交通量は下表のようになっています。
首都高速道路株式会社がいう「5%」は、この合計である54,642台が首都高全体に占める割合のことです。
外環(関越〜東名)を利用する可能性があるものを合計すると28,855台で、首都高を利用する車のうちの2.7%となります。
東京都の猪瀬直樹前知事は、「首都高速の交通量(中略)6割が通過交通なんですね。つまり外環ができれば全く状況が変わってくる」「6割が入ってくるのですから、外環で逃す」と発言しています。
「首都高都心環状線を利用する交通の約6割が沿道に用のない通過交通」は、単に東京の道路事情を説明したものですが、外環を整備する理由として用いられることで、猪瀬副知事がそうであるように、外環整備により通過交通6割が外環に転換するかのような誤解を与え不適切です。

更に整備効果で言われていることも疑問です。
「外環の整備により、並行する環状8号線では通過交通が8割減少」
については、環状8号線を通行する車のうち何台が通過交通かは、私達が入手可能なデータからは計算できません。
そこで、外環の既設区間について周辺道路の交通量がどのように変化したかを国土交通省の道路交通センサスで確認しました。
全車・大型車ともに、環状7号線・環状8号線など並行する道路の交通量は横ばいです。また、首都高速3号線・4号線に相当する高速川口線や高速6号三郷線は外環開通後に激増しています。
従ってデータからは外環整備による周辺道路の改善効果はみられません。

加えて、埼玉県が平成22年度の道路交通センサスをもとに作成した資料によれば、県南部の道路を中心に走行速度が低下し、混雑度は全国ワースト1位。同じ平成22年、自動車排出ガスなどを原因とする光化学スモッグ注意報の発令日数も全国1位で、現在も環境が良いとはいえません。

その3、そもそも、将来交通量が増えるとする見通しの根拠があいまいです。

平成23年2月に国土交通省に設置されている国土審議会・長期展望委員会が開かれ、その折、国土交通省計画局が「国土の長期展望、中間とりまとめ(案)概要を資料として提示しました。その推計値は下表のとおり人口減少が明確です。

  

又、自動車の保有台数についても、全国合計台数は徐々に増えて平成18年度末に7924万台、平成24年度末には7963万台と微増の状態になっています。
東京都でも保有台数は平成17年度末にピークの464万台を記録したあと、平成24年度末には441万台と漸減し続けています。

首都圏での道路交通量の推移についてみてみると、埼玉県境では7地点(圏央道・警地点No119)から外環(大泉・地点No125)までの日当たり合計断面交通量は2001年28万台から増加して2010年29万台に微増しているものの、これらの年を概括すると埼玉西部と都下の南北交通は増えていなくて横ばいといった状況です。

以上のように、将来交通量が増えないだろうというのは、調査をすればますますその根拠が増えるばかりです。

 交通センサス実施から今まで2年ほどで出されていた国土交通省の将来交通量予測が、今回の22年センサス以降には3年経つにも拘わらず未だに発表されていないのは、センサス調査で減っている事実を反映させると将来交通量予測も減ってしまうからではないですか?

その4、今やるべきことは何か

以上、様々などのような指標からも将来、自動車交通量が増えるから道路建設が必要という理屈はなくなっているとしかいえません。
 今、緊急に行うべきは、今後50年間で210兆円もかかるとされている公共インフラの維持更新にこそ税金を使うべきであると考えます。2013年度ではこの費用に本来は3.6兆円必要であるとしながら国土交通省は充分な予算を計上していません。
国の借金が1017兆円を超えるという時代にあっては、次世代に負の遺産だけを残すような新規事業推進ではなく、防災・減災を謳うなら、費用対効果もあいまいな外環道の建設ではなく、老朽化した道路橋やトンネルでの事故を未然に防ぐ維持更新にこそ税金を使うべきです。

その5、大深度工法での環境への影響が全て正しく評価されていないか、または、影響を少なく見ているのは、適切且つ事実と判断できない為、再評価すべきです。

 東京外環道については40m以深の大深度での工事であるために、地上部への影響は殆どないと事業化段階では言われてきましたが、今回の大深度申請に関する説明会で配布された資料45頁では「シールドトンネル施工による周辺地盤の変位は小さい」と書かれています。
これは、今までの影響が無いとする説明とは違って「小さい」とはいえ影響があることを認めたものといえます。

しかしながら、申請書類や説明会においても、この影響の度合いやその内容については一切触れられておらず、大深度工法の環境への影響が正しく評価・情報開示されていません。
特に、40m以深にはならない浅い部分での地上部への影響は評価されている内容とは違ってくるのではないでしょうか? 既存建築物の立替ならば「大丈夫」としていますが、周辺地盤全体としての沈下などはないのでしょうか?
同様に、地下水への影響とそれがもたらす地盤変位についても、きわめて楽間的な評価がされています。果たしてそれが正しいかどうかには大きな疑問があります。
大深度ではありませんが、トンネル工事における地下水への影響については、国はその影響を今まで殆ど認めていませんが、環状八号線の井荻トンネル東側での地盤沈下や高尾山トンネルによる地下水の枯渇は、道路建設に伴うトンネル工事による以外の人工的原因が見当たりません。このような事例では、国や事業者は、トンネル工事での環境変化があったとしても、真剣にその原因をつかもうとしていません。
一度壊れた環境体系を元に戻すことは殆ど不可能であるか、または果てしない時間を要すると考えます。従って、環境への影響の評価ではより「安全側」に立った評価と予測が求められると考えますが、地盤や地下水などの今回申請での評価は全体として影響を少なく見積もっています。
このような評価や見方しか出来ない事業者はその事業適格性が無いというべきです。
 地盤の変位や地下水や、地下水と関連するその地盤への影響などについては再評価をすべきです。

 

結論
以上何点かに渡って述べてきたように今回申請内容とその前提となる事業には大きな瑕疵や不十分性・不確実性があり、提供されるべき根拠やデータが圧倒的に不足しています。
これらから、
[3]事業の円滑な遂行のため大深度地下を使用する公益上の必要があるものであること
[4]事業者が当該事業を遂行する十分な意志と能力を有する者であること
の項目には適合しないと考えますので、申請は認可すべきではありません、
以上


 

 

 

 

 

 

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