大深度地下使用認可申請に関する公聴会2014/02/23・24

公述人 古谷 圭一 武蔵野市

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自己紹介
私は東京大学工学部、東京理科大学理学部、恵泉女学園大学人文学部で教え、工学博士で科学技術庁資源調査所元専門委員の経験があります。専門 分析化学、環境化学、技術倫理学、人間環境学です。中立的な立場から工学研究者としてこの問題に関わり、分かって来るにつれて次第に反対の側の方に引き寄せられています。
これまでの公述を聞いていまして、専門の立場からの方々のおっしゃっていることはまったくそのとおりと思いますが、問題は計画実施担当者の運用の問題であることが分かって来ました。

理由1 本計画申請の必要性は、事実と相違する。
要旨 本計画の大深度地下化によって、都市計画法上同一の土地に関して計画進行中の「外環-2」計画の目的、内容は、本計画の申請書に書かれている本事業の目的、「地域分断を最小限に抑え」に関して矛盾しており、申請要件を満たしていない。

 本計画の必要性について、申請書では、「本事業は、土地の改変を出来る限り減らし、地域分断を最小限に抑え、自動車からの排出ガス、騒音及び振動が沿線に与える影響を軽減するため・・・シールドトンネルを基本構造とし、極力大深度地下を活用した。これにより、建物の移転については、高架構造の計画時には約3,000軒であったのに対し、地下方式の計画では約1,000軒に減少した。」(別添書類2-20)とある。
 本計画は、高架構造を前提とした高架部分と地上部分を対象としていた昭和41年決定の二つの計画(本線計画と地上部街路計画)を一体として扱われてきたものである。(第17回「武蔵野市における地上部街路に関する話し合いの会」(平成25. 12. 10. 大畑課長発言)
ところが、平成17年に高架部分の本線計画を地下化する都市計画変更によって、地上部街路計画(外環-2計画)を切り離して事業化することとなった。これらは現在、互いに独立の計画ではあるけれども、関連する土地部分に関しては同一の部分を対象としており、ことに、この二つの計画をそれぞれ独立に取り扱う目的上、本線計画が地上部に存在する建物の移転に関わる「地域分断」に関してこれを切り離して論議することはまったく不可能なことは明らかで、現在、住民に提案されている「外環地上部街路計画」の内容、目的との関連性を考慮しなければ、大深度法の適用は、その前提を無視することになる。
 当計画は上に述べたように、また、昨日の大坪課長の言のように、本計画は、「土地の改変を出来る限り減らし、地域分断を最小限に抑え、・・・建物の移転については、高架構造時には約3,000軒あったのに対し、地下方式の計画では約1,000軒に減少した」とある。
しかしながら、現在、長谷川公述人が述べたように、国交省も関与する東京都が提示している「外環地上部街路計画」では、「副次的効用の環境、防災機能を強調する都市道路ネットワークの完成」が目的としてされ、まさに、地域分断を主目的とすることが掲げられている。(「外環に関する地上部街路について 検討の進め方」H. 20.3. 登記用と都市整備局) 具体的な例として、現在、練馬区住民に提示されている「地上部街路について・あり方(複数案)」(平成26年1月、東京都都市整備局)では、高架構造時に設定された幅員40メートルの部分に関して、1. 道路または緑地となる3つの幅員18メートル案、2. 幅員22メートル案、3. 幅員40メートルの3案のみが示され、平成17年当時に住民が期待していた地域分断の解除は完全に無視され、これによる撤去建物軒数は示されないままである。その他の市区においても「都市道路ネットワークの必要上無条件廃止はありえない」(武蔵野市及び杉並区における地上部街路に関する話し合いの会)の方針が示されており、本申請に記された「予想される移転が必要な建物数は約1,000軒に達する」ことは到底不可能である。このことは、平成19年の都市計画変更の外環本線の地下化、すなわち、大深度化の目的「地域分断を可能な限り減らす」とする今回の申請理由とまったく反していることになる。
本来一体として扱われてきた同一の土地空間に関する二つの都市計画が互いに矛盾したまま施行されることは都市計画法第13条に照らし、この計画の必要性はこれに違反している。この事実を認識してご審議願いたい。

理由2 本申請案件に伴い行われた環境評価書には問題がある。
要旨 これまでの大深度法適用事例と本計画の規模の大きな相違は、これまでの環境評価では不可能な規模であり、その点に焦点を合わせた環境評価が必要で、このままの大深度法の適用による事業実施は、予想されていない影響が発現する可能性がきわめて大きい。

A. 過去における大深度法の適用例は、わずかに1例のみであり、神戸市内、わずか160メートル及び110メートルの二つの区間の、セグメント直径3.35メートルの導水管トンネルである。これに比して、本計画は、武蔵野台地のかつての谷頭湧水地帯の透水率の異なる何本もの地層を横断する直径16メートルのトンネル2本を並べ、約16キロメートルに及ぶ巨大な不透水性ダムの敷設ともいえる計画である。このような長大な構造物が科学的に未知の大深度(といってもわずか40メートル深)に設置される環境的影響は、決定的に大きいはずであるが、本計画においてなされている環境評価の内容は極めて不十分である。
これについては、「環境省平成20年度環境評価技術手法(大深度地下関連)調査報告書(平成21年3月)」において、産業技術総合技術所の木村克己、古宇田亮一研究員が、「地下構築物の建設によって地下水の流れが変化する。この変化の予測は非常に難しい。動きは複雑であり、時間によっても変化する。深いほど難しい」と述べており、昨日の大島公述人も「大深度地下水への影響は細心の注意を払うべき」と述べ、さらに、今野公述人も「地下水、地盤への影響を配慮すべき」と述べられました。同様な趣旨が陶野郁雄氏(当時国立公害研究所水質土壌研究部地盤沈下室長) の『大深度地下開発と地下環境』(鹿島出版会1990年(平成2年)8月)にも述べられており、これに対応するような特別の配慮と注意は、以下に述べるように、全く行われないままに、環境評価報告書は作製、発表され、本審査の資料として提出されている。なお、上記の環境省の評価手法調査報告書では、不思議なことに、大深度地下道路環境評価過去例として、本計画の大深度計画がすでに行われたこととして挙げられている。このまま大深度環境評価のモデルとされたら、磁気浮上新幹線トンネルにも直接の問題を及ぼすことともなる。
 具体的には、昨日西村公述人が触れた「武蔵野市外環連絡協議会第46回学習会(2013. 9.」において、地下水学の専門である某国立大学工学部教授のモデルシミュレーションによる多元解析法による計算結果では、本計画に使われている地下水環境評価の多元解析メッシュは粗すぎて、構築物による地下水圧変化が理論的に評価出来ず、もともとメッシュのセル内は均一というのがこの計算の前提であるから、影響はないと計算される片寄りが指摘されている。少なくとも理論的に正しいメッシュサイズ(50m以下)に関しての再計算、再評価すべきである。その上、中島公述人が指摘したトンネル内の漏水がこれに計算されておらず、さもなければ、工事着工後に当然予測できる環境破壊が生じる可能性が高い。そうなった場合、諫早湾締切工事のように進むことも退くことも不可能な事態となる。その覚悟を両高速度道路株式会社は必要とするはずであるのでこの点を含めて審査願いたい。

B. さらに、国交省の関係当局の武蔵野市における説明会(平成25年12月10日)で古谷が指摘した間違ったインプット・データにより「環境への影響は無視できる」とされている。しかしながら、この評価書において用いられた多元解析モデルへのインプット・データは、過去十数年間の年間平均降雨量の平均値であって、すくなくとも今後10年以内に起こり得る異常豪雨年に対する予測にはなって居らず、今田公述人の述べた設計のための安全は最大条件価を基礎にしなければならず、過去データを用いるにしても、10年以内の頻度で起こった異常年データをインプットデータとして用いるべきであり、さらに、最近起こりつつある異常豪雨と太平洋海水温の関係に関して、「気候変動に関する政府間パネル(ICPP)」の予測において地球温暖化による比熱の大きな太平洋海水温上昇が2030年以降に恒常化する事実を考慮すると、今後ますます生じる異常豪雨によって生じる地下水位の変化を過去の低降雨量をもって算出しているこの評価書は、結果を過剰に安全と評価していることは明らかである。これらは既に説明会で古谷が指摘してあるが、その後、再計算されたかどうかは知らされていない。私はこれは公務員技術者の倫理の問題として論文にまとめ発表したいと思っている。
上記環境省の調査報告書の中では、尾島俊雄氏(都市環境エネルギー協会理事長)が「ヒートアイランド、集中豪雨の影響のメカニズムはわかっており、その影響もわかっている。技術的には何の問題もないが、社会的対策が困難である。」と述べていて、このわかっているメカニズムを用いた正しい計算結果による評価が緊急に必要と考えて当時質問したのであるが、かつて政府委員を務めた古谷の経験によると、専門審議会ではこれらの予測計算に用いる条件や数値に関しては記載されないままに資料として提出される評価書が、あらかじめ十分な読み込みの時間、審議時間は与えられないままに諒承、決定されているのが通例である。昨日の大島公述人が、「評価報告書では最新の注意で取り入れられていると思っている」と述べたことと矛盾している。審査すべき方がこの点を預けてしまっています。
また、決定後の一般からの異議申し立て期間も、わずか15日と短く、このような計算を行う方法は書かれていても、その前提たるインプットデータまで検討する手段は到底ないのが現状である。
自然が相手だけに、科学的に粗雑に行われた評価が、マニュアル(指針)に則ってキチンと認められたのだからこれは有効であるという法優先という論理は成り立たない。十分に科学的に正しい評価に基かなければ、法律に優先する自然の仕組みによる不測の事態の災害やそのための計算外のコストを生じてしまうので、この様な非倫理的計算は可能な限りなされるベきではない。その典型は諫早湾締切工事、八ン場ダム工事であり、この環境評価報告書であると科学者の立場から申します。

C. 大深度地下構築物による地表への各種環境影響は、工事後長期かつ広範囲にわたって生じるために、これに相当する十分な合理的期間をかけた?工事実施前の綿密な環境基礎測定と?工事開始後の少なくとも5年間以上の路線両側150m程度の範囲の連続モニタリングが必要で、これに関して、これまでの回答は、ごく短期間かつ小規模な計画で、それ以外の観測計画の有無は、まったく知らされず、しかも、本計画において異議申し立て期間は、事業認可以後1年以内であり、実際に、被害が生じても、その中止、復元、または補償の可能性は、「この工事が原因とは断定できない」という言い逃れが可能で、本大深度法に直接関連する該当地区およびその近隣の居住住民の権利を無視したものである。
上記環境省調査報告書、112ページにおいて提案されている大深度地下水に対する安全措置は、「地下水流動保全工法の採用」とされているが、この工法は浅層地下水に対する工法であって、大深度地下水に対する安全措置は、当局説明によると「裏込め剤の注入」であるが、裏込め剤の外側に生じる側水圧変化は、反って非透水性構造物の直径をより大きくすることで、地下水流前後の水圧差を増大させる因子である。これによって生じる水圧差は、?トンネル東西の地下水へッド差による湧水量の変化や?長期間経ってから生じるかもしれない水道(みずみち)の形成、地盤沈下などが予想され、現在のままでは、「安全である」と合理的な根拠ないままに評価されている。このため、大深度地下水に対する環境評価は不十分のままであり、今後この手法が大深度環境評価のモデルとすべきではなく、単に従来の表面及び低深度に対する手法のみに止まっており、大深度地下に対する手法は配慮されて居らず、審査する段階に至っていないと判断すべきである。

理由3 計画事業立案段階における「住民の意見を十分に聴く」の軽視
 
要旨 本計画が決定されて以来、極めて長い間関連地域住民からの意見聴取が、「形式的に」行われてきたが、本審査においては、厳正に中立的に「住民の意見を十分に聴く」ことを行い、先日福島で行われた「原子力発電に関する公聴会」のような「公聴会開催」が単なる行政処理を先に進める形式的段階とならないように審査頂きたい。

さきほど、池田公述人の質問が議長や事務局担当者にとって、分からなかったのは、彼らはハードな事業そのものにのみ焦点があり、公述人はこの事業に関連するソフトなこころの問題を事業に無視できないことを問題にしていた食い違いと私は思う。この食い違い以下に述べる原因でもある。これに関連して、この席で思いだしたのは、戦前の国交省の前身の内務省技監であった宮本武之輔の詩である。はっきり思い出せないのだが、「課題をもらったまま働く奴隷でなく、わたしは自分で考える技術者になりたい。」という趣旨のものであった。
本計画のB/C、交通量予測やアセスメント結果について 「定められた方法にのっとって厳正に」算出しているという当局の回答の中では、その根拠となるインプットデータの意味、および内容、算出根拠などは、説明会やオープンハウスの説明員には答えられず、「調べておく」、「上司に報告する」、という回答のまま、多くは、それ以降回答はなく、無視されて、回数は増えても、最終報告書にはせいぜい短い意見の羅列か「十分住民の意見を聞いた」としか書かれないままである。
これまでの本計画に関する国交省主催のPI会議、オープンハウス、説明会等の住民との話し合いの会のいずれにおいても、開催通知は突然、かつ、周知には程遠い手段で行われてきている。また、開催時も、計画案の一方的な説明が主で、住民側の質問に対しては、
見当違いな声明や回答で多くの時間を費やし、「検討中です」、「調査して回答する」「公表できない」、「記録にない」、「答える権限にはない」と答えるのみである。これに対するその後の対応がないままに、「聞くため」の時間と回数を重ねるのみである。そのために、この計画への住民の建設的参加(これこそが本当のpublic involvement)が拒まれたまま規定の方針のみの説明で、質問者の疑問はいつまでも疑問のまま答えられず、疑問をもつ住民の理解納得による協力によって原案をより合理的なものにするという本来の目的は忘れられている。回数、時間のみが「意見を聞く機会を十分に与えた(取り入れたではない)」という形で大深度法適用申請がなされている。従って、本計画申請案は「知らしむべし、拠らしむべからず」の非民主的行政手法でつくられたもので、かつて、本計画の地下化のきっかけとなった朝日新聞(1998年11月12日)「東京・パリ都市交通シンポジウム」意見の中で、野中ともよ氏(当時の運輸政策審議会委員)が「ただ数字のメモリだけが優先するシステムで、そこにひきずっていくのはちょっとまずい」、「公聴会を何度も開き、少数グループにも必ず門戸を開く」、「わが東京の街づくりというのは、経済性、合理性ということが全てに優先する説得材料であった。そして、どちらかといえば、パブリック・サーバント(公務員)としての行政のメカニズムというよりも、お上としてのパワーが強かった。」と述べたのに対して、山下保博氏(当時の東京都都市計画局技監)は、「幅員四十メートルの地上部分をどう利用するか、出来るだけ地元の要望を採り入れながら、今後、計画を具体化したい。」と回答しているが、地下化以降の計画側の意識はこれまで述べたようにまったく変わらないままのものが、本線計画である。
同じ国土交通省ではあるが、審査側の本日の主催者の方々に公聴会本来の目的を尊重して、「住民の意見を十分に聴」き、中立的な立場で、こころをも汲み取った審査を行って頂きたいことを心よりお願いする。

 

 

 

 

 

 

 

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