大深度地下使用認可申請に関する公聴会2014/02/23・24
公述人 けしば誠一(杉並区議会議員)
外環道大深度地下利用に関する公聴会への公述書
私は、杉並区議会議員のけしば誠一と申します。6期の間、数年を除き一貫して杉並区議会道路交通対策特別委員会に所属し、東京外郭環状道路と放射第5号線問題に関心を持ち取り組んできました。今第一回定例区議会開催中であり、本日午後の公述を申し入れたところ、沿線住民の皆さんをさしおいて冒頭に立つことになり大変恐縮しています。ただ今、国から説明された外環道の効果や目的は、環状八号線渋滞の解消など時代の変化の中で、必要性の有無から問い直されるべき状況になったことを指摘しておきます。しかし限られた時間であり、私は、外環道の大深度地下利用の問題点に絞って質問と意見を申上げます。
1966年の都市計画決定当初は、高架構造の外環本線の下に地上部街路(外環の2)が造られる計画でした。外環道計画が明らかになって途端、杉並区では、沿線住民が立ち退きに反対し、また区民の誇るべき財産である善福寺の水と緑を守るために区をあげた反対運動が巻き起こりました。その結果、1970年の建設大臣による外環道の「凍結宣言」により、外環道の事業化は30年以上見送られてきたのです。
その後、石原都知事の意向で、大深度地下計画で外環道の凍結が解かれ、立ち退きや車による影響はなくなったものとして沿線住民は受け止めながらも、不安をぬぐえないまま都市計画の変更と事業化に向かいました。その折、石原都知事が立退きはなくなったと発表したことで、沿線住民は外環道本線とともに当然にも外環地上部街路も地下の3車線目となったと考えていました。現在外環の2は東京都と、その必要性の有無から話し合いが行われています。基礎自治体である杉並区と区議会は、党派を超えて外環の2は必要性がないと考えていることを、許認可権者である国はしっかりと確認しておくよう、この場で表明しておきます。
外環道大深度地下利用に関しては、沿線住民や私たち議員が抱いている大深度地下に関する問題点や、環境対策の疑問点に対する説明責任は果たされないまま、都市計画決定が強行され、外環本線の事業化決定に至りました。
冒頭、私の立場は、国が外環道大深度地下利用によって予想される環境影響や危険性に対して、住民から出されている貴重な質問に説明責任を果たさないまま地下利用を進めることには反対であるということです。その理由は大深度地下に16キロの長さの巨大な構築物を造ったらどのような影響が出るのか、正しい分析や調査がなされていないからです。短いトンネル工事の例はあっても、これまで世界でも経験したことのない16キロに及ぶ長さで大深度地下工事を進めるにあたり、データも少なく実態が把握されていない現状です。専門家が指摘するいくつかの危険性が現実のものになれば、取り返しのつかないことになるからです。
私達が最も懸念していることは 大深度地下に巨大な構築物を造る事で、地下水脈がせき止められ新たな水みちに沿って流れだし、その結果区民の宝である善福寺池が涸渇してしまうことです。杉並区の水源であった井の頭池や善福寺池は、既に近隣のマンション建設などの影響で浅層地下水は枯渇し、地下深くからくみ上げている現状があります。大深度地下工事によって最後的に地下水脈が断たれれば、水と緑に恵まれた素晴らしい武蔵野の自然環境を喪失する危機を迎えます。
国は一貫して善福寺池が涸渇する可能性はないこととしてきました。その根拠を示さないまま大深度地下利用に手を触れてはなりません。
大深度地下の利用について 未だ誰にも判らないことがたくさんあります。住民は、国に対して1年半前から具体的な疑問を質問項目にまとめ回答を求めてきました。未だに回答の場が実現できていません。私が道路交通対策委員会で、杉並区を通じて何度も国に問いあわせを行ってきたことは、国土交通省も確認していることと思います。未だその回答が得られていない問題に関して、ここで私の意見を述べることにしました。
事前の質問項目として提出しておりませんが、明日公述予定の沿線住民から既に提出されている質問項目の中にも含まれている問題です。その場で私の以下の質問に対する回答も合わせていただけるよう求めておきます。
またその回答を、杉並区議会道路交通対策特別委員会の場でも行うよう求めます。それが行われないまま大深度地下工事に進むようなことになれば、これは地方自治と地方分権に対する挑戦です。最低限の説明責任を果たさないまま大深度地下利用に踏み出すことには地方自治を守る立場から、あらゆる手段を行使して国と争うことを表明しておきます。 第1の問題は、練馬から杉並、武蔵野、三鷹、世田谷までの大深度地下に、高さ16メートルになる巨大な構造物が南北に建設されることで、西側から東に向かって大量に流れている地下水がせき止められることの影響です。国は、大深度地下トンネルの上下にも地下水の流れがあるため影響がないと説明しています。しかし、地下の巨大トンネルの構築によって水脈が寸断されることによる影響がないことが証明されていません。
私は道路交通対策特別委員会で、具体的な事例をあげて、問題点を質問してきました。その一つは、環状8号線井荻トンネル工事により、地下水の上流と下流に水位の差ができて、1日60トンもの地下水が流出し、妙少寺川への放流している事実です。これまで、外環調査事務所は、「外環はシールド工法によって工事するから、地下水には影響がない」と説明してきました。これが事実と違うことが明らかになった実例です。
道路交通対策委員会で示したもう一つの実例は、シールド工法による大江戸線を開通工事で、大量の地下水が湧き出し、下水道や河川に毎日捨てられている事実です。2002年11月8日付東京都議会公営企業会計決算特別委員会での質疑によれば、交通局長の答弁で、?2001年度の大江戸線駅部の漏水(水が漏れた)件数は407件。うち光が丘〜新宿間放射部が90件、代々木〜新宿西口までの環状部が317件で、環状部の漏水が圧倒的に多い。?漏水量は、2001年度に12万?に及ぶ。?地下水位が元に戻るため、開業後一定の期間(漏水)発生件数が多くなる。大江戸線はその上、地表から深いところを通るため、大きな水圧がかかっており、漏水が多い傾向にある。?都営地下鉄全線での漏水量は、360万?にも及び、うち320万?は目黒川や神田川などの河川に放流している。とのことです。
大江戸線は、2000年11月に全線開通していますが、以来シールド工法の技術が、地下水漏水を根絶できるほど進歩したとの説明は、未だなされていません。
その後都心部では、大深度地下利用による地下鉄工事が次々と進められた結果、最近、東京都内の地下水位が40年前と比較して、最大で約60メートル上昇していたことが都などの調査でわかりました。都は、工場などで地下水を使用する量が減ったためと説明していますがその根拠はありません。建設中の首都高中央環状品川線は、地下区間の品川区西五反田付近などで、工事中に大量の地下水がわき出たため、品川線の完成は1年延期になりました。都建設局は、「ボーリング調査に基づく予想とは異なる箇所から水が出てきた。地下水の流れは簡単に把握できない」と頭を抱えています。
大量の地下水の影響は、既存の地下施設にも忍び寄り、都営地下鉄三田線では2013年3月以降、4か所でトンネル壁面の剥離が見つかりました。いずれも、湧き出た地下水で内部の鉄筋が腐食し、隙間が生じて壁面のコンクリートがはがれ落ちたためでした。こうした現象は、これまで都営全線で年1、2件程度しかなかったことから、都交通局が緊急調査を実施したところ、漏水箇所が2100か所以上もあることが判明しました。トンネルが地下水で浮いている状態で、巨大地震で壁面が破壊された場合、何が起こるかわかりません。
2005年9月4日の神田川、善福寺川、妙少寺川の氾濫は忘れることができません。その後改良工事が行われたものの、善福寺川に外環トンネルで漏水した地下水を放流した場合、これまで以上に水害発生の危険度が高まります。
一方、2013年の国立公害研究所によれば、大量の地下水の放流は、地盤沈下を引き起こすとのことです。特に、深い地層から地下水が流出するほど、地盤への影響は大きくなるとの研究があり、明日住民から詳しく説明されます。
第2の問題は、高さ16メートル長さ16キロの強大な壁に沿って、新たな水みちができるという問題です。今回の外環トンネルは、大深度で地質が異なる多くの帯水層(水を含む地層)を貫通します。
国土交通省の大深度地下利用企画室によれば、「地下施設が大深度かつ長距離化することで異なる帯水層を貫いて設置することになる場合がある。このとき、地下施設周囲に沿って新たなみずみちが形成された場合、異なる帯水層の連続化によって一部の帯水層では地下水位・水圧の低下や上昇の恐れがある。また、汚染源がある場合には地下水汚染が拡散される恐れもある」と書かれています。
トンネルが貫通する地層は、黄鉄鉱が広く分布している上総層(かずさそう)というもので、黄鉄鉱は、空気に触れると硫酸に変化します。この危険性については明日具体的なデータに基づき詳しく示されることを期待します。
この調査報告から明白なように、外環トンネルは、トンネル周囲にあらたなみずみちを作り、異なる帯水層を結んで、硫酸などに汚染した水を流してしまう危険性があります。 ところが アセスでは「シールドマシンにより掘削した直後に、セグメントと呼ばれる部材により露出した地盤を覆います。このため地盤及び地下水が直接空気に触れることはなく、酸性化しないと考えています」と書かれ、同じ内容が本日も示されました。真空状態ではあるまいし、ほんとうに空気に触れないで作業が可能と考えていたら机上の空論です。空気に触れて酸性化するのは長期にわたってという条件で、工事中は起こらないとの説明でした。しかし水みちができれば長期にわたって酸素に触れることになることは明らかではないでしょうか。
私たちは この新たな水みちの形成は、地下水の流れを変え、先に示した善福寺池が涸渇することにつながると考えています。この点での国の責任と、枯渇しないという保障を求めるものです。
第3の問題点は、地下水流動保全工法の効果が立証されていないことです。アセスではこの保全工法が、トンネルの上流と下流の地下水位を保つ唯一の手段になっています。大深度地下では、地下水に影響はないものとしてこの工法が用いられることはありません。しかし、大深度に向かって掘り進める開削部、青梅街道インター部分の工事ではこの工法が使われることになります。この保全工法を取れば地下水流動阻害は起こらないとしているのです。アセスではこの工法の効果の確実性について「不確実性は有りません」と明記しています。
国は、これまで日本全国で実績例が16例あると説明しています。その効果について、住民がこれまで何度か質問してきましたが、「いずれも水位は安定していて効果は有り」と繰り返し答えてきました。さらに、その根拠を詳しくただすと、何箇所かに電話で確認しただけで、その後の効果のデータをつかんでいないことが判りました。私達はその実例の半数以上で通水菅の目詰まりなどが解決されていないことを確認しています。
私は、環状8号線井荻トンネル工事に伴う地下水位グラフを入手して道路交通対策特別委員会で杉並区に効果がないことを質問してきました。その後、道路交通対策特別委員会として東京都に求め、工事前から供用後20数年分の地下水位のデータを入手しました。そのデータにより、当時の直近でも、トンネルで隔てられる地下水の上流部分と下流部分で、2mから4メートルの水位差があり、効果が出ていないことを当委員会で明らかにしました。その後、東京都は調査を止めて、効果を検証できなくさせてしまったことからも、地下水流動保全工法の効果に自信がないことがうかがわれます。
国は、大深度地下工事を始める前に、杉並区議会道路交通対策特別委員会に、先の16例の効果を、納得出来るデータに基づいて説明するよう求めます。
私たちは、日本で初めて挑戦する大規模な大深度地下利用で、これまで杉並が守り育てて来た水と緑の美しい自然が失われることをおそれています。壊された自然は元に戻せません。大深度特別措置法では、「安全の確保と環境の保全については、念には念を入れて対応せよ…」として、技術指針や基本方針が定められています。外環についてはそれらが守られているとは到底言えない状況です。これまでも外環道の建設で行われたアセスは、結果的には予測と全く異なる環境破壊をももたらし、事業化のための既成事実作りでしがなったことが示されています。沿線住民が指摘したことが、現実に起こった場合に「想定外でした」では許されません。国は、環境面と安全面で、万全な対策ができることを具体的なデータに基づき説明責任を果たし、そののちに大深度地下使用について認可決定をされるよう求め、私の意見とします。
2014年2月23日
杉並区議会道路交通対策委員 けしば誠一 |
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